闇の国インドネシア──コンパス社騒動について──

 先日、インドネシア最大手新聞社「コンパス・ジャカルタ」の本社で一つの騒動があった。コンパス社グループは新聞、テレビ、芸能、イベント設営など、実に様々な情報・娯楽事業を展開するインドネシアの一大グループだ。


 ある日の夜に一人の男が飛び込んできた。男の名前はボルシ・ウダラノ(bolsi udarano)。彼は元々マナマナ(宣伝情報省)の職員だった男だ。彼の手にはあるUSBが握られていた。

 その男はマナマナから国民保護情報を含めた国家機密を盗んでいて、警察とマナマナのエージェントに追われていた。コンパス社は一応狂人に追われている可能性も視野に入れて、初めは男を匿っていたが、その後彼らが本物の警官であると確認が取れると、嬉々としてその男の身柄を警察に引き渡した。後日コンパス社はアフマド・ユリアント主席報道官によってその対応を絶賛され、表彰された。

 これが騒動としてコンパス社を中心にインドネシアで報道された。

 しかし、私達週刊深層社の現地社員やインドネシア国民の一部では、この件に関して深い闇を垣間見ているのだという。

 問題は、このボルシという男が持ち逃げしたというUSBと、コンパス社の取った本当の対応だ。

 なんとこの男が持ち逃げしたUSBのデータの中には、ピンダッドの不透明で莫大なカネの流れが克明に記されているというのだ。そして幾つもの資金洗浄を潜り抜けたカネが最終的に行きつく先は、アブド・ソイセノ首相(abud soiseno)やアフマド・ユリアント主席報道官(achmad yurianto)、ゲリンドラ・デツェン宣伝情報省大臣(gerindla detseng)などの所謂“エリート・トライアングル”と呼ばれる政権・官僚中枢や、パムチ・アナク・デデ軍事大臣(pamuci anak dede)を中心とした国軍上層制服組なのだという。

 “ピンダッド”(pindad)というのは、国営の、軍需から工業製品まで製造する巨大企業グループのことだ。

 なんでも、ボルシという男は内部告発のつもりでこれらの不正となり得るUSBをコンパス社に持ち込んだのだという。

 匿名で我々週刊深層の現地特派員の取材を受けた関係者によると、「噂程度だが、あのUSBは国の現状・未来、全てを変える可能性を秘めていた。それほど重要な、恐らく関係者にとっては国家機密より重要なデータだったらしい。しかし、彼は捕まってしまったし、捕まるまで誰もそのデータを見ていないと報じられている。今後はデータ警備は何倍にも増強されるだろうし、遂にこのUSBの真実は葬られたのだ。」と話した。しかし、続けて、「ただ、これも噂なのだが、一人だけこのデータを見た人物がいると言われている。」と話した。

 その人物とは誰か。コンパス社社長、ドイジファ・タルファカ氏(dvijihva tarvaka)だ。ボルシ氏がその内部告発USBを持ってコンパス社に逃げ込んだ際、上述の通りコンパス社社員は追ってきた警官が本物かどうか判断が付かず、一時奥に彼を匿った。その時、ドイジファ氏はボルシ氏から内部告発であるという旨を受け取って、そのUSBを見たのだという。そして社員から「警官は本物である」との知らせを聞き、彼はボルシ氏を警察に突き出すように社員(警備員)に指示したのだ。もちろんエージェントにUSBも返却した。

 もし、この内部告発USBをコンパス紙の一面に飾ったら、コンパス社は大儲け間違いなしの特ダネだっただろうに、何故ドイジファ氏はUSBを隠す方向に事を運んだのだろうか。

 答えは簡単で、彼もその不当な利益の恩恵を受けていたからに他ならない。コンパス社のみならず、ほとんどのインドネシアの情報系の大企業は政府、国軍、もしくは政府と関わりの強い更に上位の大企業から、あまりよろしくないカネが降っていると言われている。

 また、「ヨグジャ・クラブ」(klub-yogja)という王室のような金持ちクラブ(コンパス社も仲間入りしている)に入っている「貴族階級」の経営陣は、「親方ジャカルタ」の恩恵を十分に得ていることから、もし現状がひっくり返るような記事を出してしまっては特ダネの利益や正義以上に、自分たちの身が危ないと判断したのだろう。

 正義よりも金、利権が勝ったのだ。独立宮殿(首相府)の面々は両手を挙げて大いに喜び、良識の砦と思ってコンパス社に逃げ込んだボルシ氏は大変驚き、失望しているだろう。

 しかし、これらの話は全くと言って良いほど証拠はない。あくまで噂話程度であり、証拠は全て警察とエージェントが持って行ってしまったからだ。

 もしこれらの話が全て本当だとしたら、隣の大国インドネシアは政府と民間の報道機関が結びつき、正義の真実が弾圧されているという予想以上に闇の深い国なのかもしれない。

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